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トークイベント「北欧の暮らしを伝えてくれた先駆者 〜島崎先生が語る、これからの生活デザイン〜」参加を終えて

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トークイベント「北欧の暮らしを伝えてくれた先駆者 〜島崎先生が語る、これからの生活デザイン〜」参加を終えて

2025年10月30日、カール・ハンセン&サン東京本店で行われたトークイベント「北欧の暮らしを伝えてくれた先駆者 〜島崎先生が語る、これからの生活デザイン〜」に参加しました。

登壇されたのは、デンマーク王立芸術アカデミーの研究員として学び、日本に北欧デザインの思想を紹介してこられた 島崎信先生(武蔵野美術大学名誉教授)。そしてモデレーターを務められたのは、北欧や民藝をテーマに執筆や講演を行う 文筆家・萩原健太郎さんです。

お二人とも著書を通じて長く学ばせていただいていた方々で、今回こうして直接お話を聞けたことは、本当に光栄でした。

オーレ・ヴァンシャー

 

トークの中で島崎先生は、何度もこうおっしゃっていました。

「過去を知らない者は、未来をつくれない。」
そしてもう一つ、「マイ・ラインを持ちなさい。」

“マイ・ライン(My Line)”とは、デンマークで師事したオーレ・ヴァンシャーから教えられた言葉で、「自分の線を描くこと」「自分だけの基準を持つこと」を意味しています。

島崎先生は、この二つの言葉を行き来しながら、デザインとは“誰かの真似をすることではなく、歴史を知ったうえで自分の線(自分らしさ)を見つけること”だと語っておられました。

その「線」を見つけるために、描いては消し、また描き足しては消す──。何度も手を動かしながら、紙の上で自分の考えと向き合うことの大切さを、ヴァンシャーの教えとともに、今も鮮明に覚えておられるそうです。

その言葉を聞きながら、デザインとは形をつくることではなく、自分をつくる行為そのものなのだと感じました。

ハンス・J・ウェグナー

 

ウェグナーの代表作であるYチェアは、デンマークの“美しい日用品”として生まれた椅子です。単なる装飾品ではなく、暮らしを支える道具をいかに美しくつくるかを大切にしていました。

手仕事の確かさと、工業製品としての合理性。その両立を見事に果たしたのがYチェアです。

島崎先生は、こうしたデンマークの家具づくりを「美しい日用品を生み出した成功例」として紹介されました。芸術品ではなく、生活に根ざした美しさ。Yチェアを生み出した精神と技術は、今日のカール・ハンセン&サンの家具にも受け継がれ、今もなお、活き続けているのです。それこそが、時を経ても色あせないデザインの力なのだと感じました。

10年前、トラスファクトリーができたころ、私は家具やデザインを担当する立場ではなく、どこか「自分の分野ではない」と感じていました。難しいことは苦手で、デザインの話になると少し身構えてしまう自分もいました。

それでも、毎日家具に囲まれて過ごすうちに、いつの間にか “きれいだな” とか “これ、好きかもしれない” と、自然に感じるようになっていました。そしてその感覚は、暮らしをほんの少しずつ豊かにしてくれるものだと、身をもって感じるようになったのです。

家具は服のように、季節ごとに取り替えられるものではありません。けれど、無垢の木が年々変化していく姿を見ていると、そこに時間と暮らしの“積み重ね”が静かに宿っていくのを感じます。

そして、そんな日々の中で読んでいた本の多くが、気づけば、島崎先生や萩原さんの著書でした。あの頃は知識を得るために読んでいた本が、今では、自分の暮らしの中の“好き”を育ててくれていました。

島崎先生は、「時には座りにくい椅子もあるけどね」と笑いながらも、「デザインとは、人の暮らしをよくするためのもの」というまっすぐな信念を語られていました。近年のデザインが軽く消費されていく現状に触れながら、「これからは立て直す時期だ」と静かに語られた声が、深く心に残っています。

モデレーターを務められた萩原さんは、優しく話の流れを整えながら、会場全体が島崎先生の世界に入り込めるように導いていました。その穏やかな進行のおかげで、私自身も島崎先生の言葉ひとつひとつに耳を傾け、深く引き込まれていました。

そして、そんな島崎先生の姿は、90歳を越えてもなお、新しいものを柔軟に受け止めようとする“学び続ける人”そのものでした。

トークショーのあとはレセプションが開かれ、用意された軽食がどれもとても美味しかったです。2回目を取りに行く勇気は出せなかったけれど(笑) 、それもまた幸せな瞬間でした。

あるインタビューで島崎先生は、『自分の人生を自分でデザインする』と、語られていました。

デザインを学んだことのない私でも、暮らしの中に自分なりの“デザイン”を見つけられるのだと、今回のトークを通して、その言葉が静かに心に響きました。