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空間の余韻をたどって Vol.8(最終回)|音と響きあうマスターピース。名作椅子が紡いだ特別な時間

全8回でお届けしてきた連載「空間の余韻をたどって」も、今回でいよいよ最終回を迎えます。 最後に振り返るのは、1F「オーディオリスニングルーム」に展示した5脚たちです。
本格的なスピーカーやオーディオ機器に向き合うように並べたのは、Carl Hansen & Søn(カール・ハンセン&サン)とハンス J. ウェグナーの協働が始まった1950年に生まれた、初期のマスターピース(名作群)――CH22、CH23、CH24(Yチェア)、CH25、CH26。
1950年、名作が生まれた原点「マスターピース」
当時まだ無名に近かった若きウェグナーが、カール・ハンセン&サンのために最初にデザインしたのがこのシリーズでした。 今や世界中で愛される名作「Yチェア(CH24)」をはじめ、木とペーパーコードという共通の素材を用いながら、ダイニングからラウンジまで用途やフォルムを変えて生み出された奇跡のようなコレクションです。
展示期間中は、この歴史的な5脚を一度に座り比べていただくという、贅沢な時間を多くの方と共有できました。 軽快な座り心地のダイニングチェア(CH23、CH24、CH26)と、深く体を預けられるラウンジチェア(CH22、CH25)。 それぞれの背もたれの角度やアームのカーブ、ペーパーコードの張り方によって、腰掛けたときの感覚はまったく異なります。
その中で、今回もっとも人気を集めたのが「CH25」でした。 低めの座面に体をあずけ、絶妙に傾斜した背もたれに身を委ねた瞬間に感じる、包み込まれるような安心感。熟練の職人が手作業で何百メートルものペーパーコードを編み込んで仕上げるその座り心地は言わずもがなですが、空間の中で凛と佇む彫刻のような美しさに、改めて惚れ惚れとしてしまいます。
音を楽しむための特等席
この1Fオーディオリスニングルームで音を鳴らした瞬間、息を呑むような感動がありました。 普段はあまり耳にすることのなかったジャンルの音楽も、この本格的な音響空間で聴くと驚くほど新鮮に胸に染み込んできます。 まるで目の前でアーティストが自分だけのためにライブを行っているかのような圧倒的な臨場感。 正面の一番いい特等席で、贅沢にもアーティストを独り占めしているような感覚に包まれます。
目を閉じて素晴らしい音楽に包まれながら名作椅子に身を置いていると、普段の暮らしの中では気づかないような、新しい感性やインスピレーションが心の奥から静かに湧き上がってくるようでした。
「売るもの」から、かけがえのない日常へ
振り返れば、私自身はもともとインテリアに特別なこだわりのある家庭で育ったわけではありませんし、興味があったわけでもありません。家具と本格的に向き合い始めたのは、仕事になってからのことです。最初は正直なところ「いわゆる取扱商品」「売るもの」という感覚でした。
なぜこんなにも長い年月、売れ続けているのだろう。なぜ人気が落ちることなく、ずっと作り続けられているのだろう――。
その理由が知りたくて、勉強会に参加し、本を読み、そして実際に日々の暮らしの中で使ってみました。
そうして向き合っていくうちに、気づけば「いつもそばにずっと一緒にいてくれる存在」になっていました。
何気ない普通の日。ふと目を落としたときに、これが平和なんだと感じる瞬間があります。
同じ時間の流れの中にいるはずなのに、どうしてこんなにも気が焦って過ごしてしまうのだろうか――そんなときでも、お気に入りの家具やあかりを眺めていると、不思議と穏やかな気持ちを取り戻している自分がいます。
お店を担当するようになって、10年あまり。知らないこともまだまだたくさんありますし、当然、新作も次々と発表されます。年を重ねるごとに少し忘れっぽくもなり、何度も確認しては「やっぱりいいな」と前よりもっと好きになる。
最初は「商売道具」だった家具たち。
けれど今の私は、この心地よさを「届ける」、この気持ちを「共有する」という感覚に近いのかもしれません。
「いい音を届けるプロ」のこだわりと、空間が調和する理由
実は今回のイベントでは、1Fだけでなく、ハイエンドオーディオシステムを備えた2Fの「T2 ハイエンドシアター」にもたくさんの椅子を並べていました。
それぞれに座面の高さ(SH:シートハイ)や形状が異なる様々な椅子たち。座る位置の高さや角度が変われば、耳に届くサラウンドや音の響き方は大きく変わってしまいます。
どの椅子に腰掛けても最高の体験を味わっていただけるよう、私たちが家具を並べて帰ったあと、スピーカーのセッティングをしてくださっていたそうです。
翌日、「昨日は深夜までかかったよ」と少しお話ししてくださったのですが、「いい音楽を聴かせるプロ」としての真摯な姿勢と情熱を知り、一緒にイベントができて本当に良かったと思える瞬間でした。
今回の展示を振り返ると、オーディオも家具も、一つひとつが強い個性や背景を持ったモノたちばかりでした。
それなのに、足を踏み入れた瞬間からすべてが心地よく感じられたのは、互いが主張し合うのではなく、空間全体として美しく調和していたからなのだと感じます。
……と、そんな2Fの様子もたくさんご紹介したかったのですが、あの贅沢な薄暗がりの中で椅子に身を委ねる心地よさばかりに、私自身がすっかり気を取られてしまっていました(笑)。2Fの空間については、ぜひVol.1(OW2000)の記事でお楽しみいただければ幸いです。
空間の余韻を胸に
全8回の連載ではご紹介しきれなかった名作家具や照明が、私たちのショップにはまだまだたくさん並んでいます。
写真や言葉だけでは伝えきれない座り心地や木肌の手触り、光の温もりを、ぜひショップで実際に確かめてみてください。
素晴らしい空間を惜しみなく提供し、あたたかくサポートしてくださったサウンドテックの皆様に、心より感謝申し上げます。
このサウンドテックさんで体験したことのすべてが、私自身だけでなく、このイベントに携わったすべての人たちのこれからの暮らしや仕事の中で、なにかのヒントとして活きていけばうれしく思います。

